ブティ・ジーポの結晶石
重い冠を頭に載せた青年
光の声を持つ金の乙女
そして、ペンを片手に持つ少年
動き出すために必要な、
ブティ・ジーポの結晶石
1.大臣の依頼
「眠っている人を、目覚めさせる方法?」
全体的に黒っぽい衣装に身を包んだ占い師、ヨルは首をかしげた。
ここは照明の光を抑えた薄暗い占いのテント。ヨルの衣装は背景に解けて、黒曜石の瞳ばかりが光をたたえている。
「そうなんだ。何か方法はないか、占ってみてほしい」
淡い光を放つ水晶がのった台をはさんで占い師と対面しているのは、白いマントを羽織った旅姿の青年だった。やわらかい茶の髪がふわんと肩にかかる。
「眠っている人って言ってもね……誰なのかもっと絞り込んでくれないと。それってまた任務なのか、ヒナタ」
「そう。今回は結構やっかいでね」
ヒナタと呼ばれた青年はうなずいて、このことは他言無用で、と口の前で指を立てて断ってから話し始めた。
それは丁度今日の朝の事。
ヒナタは大臣に呼び出された。
彼は大臣直属の特殊任務執行部の一人で、その中でも特に大臣の信頼が厚い。特殊任務執行部というのは表立ってできない国の事、私用の事を秘密裏に処理するのに使われる者達で、当然その存在は一般に知られていない。
「大変なんだ……」と挨拶もなしに大臣の第一声がそれだった。彼はちょっと見ない間にずいぶんやつれていて、相当な何かが起こったことをヒナタに予想させる。
「大変なんだ。王が、原因不明の深い眠りから覚めない」
王というのは、つい先日、亡くなった先代王を継いだばかりの若き王シャインナのことだ。その彼が、王になって早々深い眠りにつき、まるで御伽噺の姫のように昏々と眠り続けているというのだった。
「亡くなったのではないのですよね? 眠っている、と」
先代王が亡くなったばかりであまりに不吉なので声を潜めて確認すると大臣はうなずいた。
「眠っているだけだが原因不明だ。学者にもわからない。原因も、目覚めさせる方法も。この時期に王に動きが取れないのがどんなにまずいことか、お前にもわかると思う。そこでひとつ頼みたい。もう予想はついていると思うが、王を目覚めさせる方法を見つけてきてほしいのだ。学者にわからなかったのに、と言ってくれるな。お前なら何とかしてくれると、一縷の望みを託す」
「なるほど。眠っているのは王様か。結構大変だな。全然知らなかったよ」
ヨルは占いの準備をしながらつぶやいた。
「当たり前だよ。情報が外に漏れないよう、厳重にガードされている」
「こんなところで言っちゃっていいの?」
「いいんだ。君を信頼してるから」
恥ずかしがりもせず冗談でもなくそう言うヒナタにヨルは舌を巻いた。
「まあ、占ってみるよ。今どうすべきなのか。王が眠りを覚ます方法を」
「よろしく」
ヨルは水晶玉の前に座って、なにやら呪文を唱えた。すると水晶玉の青い光が輝きを増す。見つめていると、その中で様々な色が溶け出し始め、やがて一つの像を結んだ。
それは、青いビーズを編みこんだ見事な金の髪に、同じく金の瞳、金の竪琴を持つ美しい少女だった。
「これは……金の谷の、金の乙女だ」
その少女を見て、ヨルがつぶやく。
「金の乙女?」
「そう。詳しくは知らないが、金の谷の一族は、『光の声』を持っている。彼らが歌う歌は、時間も空間も越えて空気を震わせる事ができると言う。もしかしたら夢の中の王にも、その声が届くのかもしれない」
「そっか! よし、金の谷に行ってみる」
気持ちはやって今にも出て行こうとするヒナタを引きとめ、ヨルは忠告した。
「王がなんで深い眠りについてしまったのか分からないが、その原因のようなものが、今回のお前の行く手を阻む気がする。これは、占い師としてのカンだが。解決方法はあきらめないこと、だ。行き詰まったらまたくるといい」
ヒナタはうなずいた。
そして、早速金の乙女がいるという、金の谷へと向かうことにしたのだった。
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