サイドさまから、いただいたアダミク

愛でることへの許しをください。
貴方を愛でることで、私の想いを伝えさせてください。
その聴覚を甘く痺れさせてみせるから。
持てる全ての慈しみで貴方を満たしてみせるから。

ねぇ、いいでしょう?





『移り香と水の帳、分かたれるもの』





「・・・?」



手を伸ばし、触れる。
向かって右側、ミクリからしてみれば左側の髪を撫でる。
一本一本が流れ落ちていき、指先に留まるものは艶と柔らかさの二物のみ。
それさえ、チカラを込めて掴もうとすればするりと逃げ出してしまう。
逃げようとしない貴方に対し、それは何て正直なのでしょう。


「逃げ出してしまいたいのですか?」
「そんなはず、」
「ミクリ」


美しく磨かれたガラス玉の瞳を覗きこむ。きらきらと、水を含むその輝きの中。
真っ直ぐこちらを見つめ、そしてそのくせ不安に揺れている。
視線を逸らしてしまいたい衝動は高まっていくばかりでしょう。
肩に回した左腕に伝わる、心の臓の振動がそれを私に教えている。
雨雲の間をすり抜けて落ちてくるぼんやりとした光が、窓辺に立つ私たちを薄明るく照らして。
レースのカーテンを背に私を見上げる貴方に、何ともいえない影が落ちるのは意図せぬ出来事。
髪を弄っていた右手をそのまま頬から顎へかければ、視線はおのずと今以上にピントが合うようになる。
親指が薄い唇をなぞり、少し震えたそこに押し当てる。
秘密を守らせるように。口を利かぬように。


「そのまま・・・・・・、そのまま・・・」


ただ静かに、聞いていなさい。
立ち尽くしながら。私の左腕に拘束されて、身動きの取れないままで。
かかる髪を掻き分けて、耳元に唇を寄せる。
息を呑む様子、肩が跳ねる様、心拍数の上昇。
すべて、意図したとおり。
本能で後ろに退きたがるカラダを捕まえたまま、鼓膜以上に、骨に染み渡るように。


「ミクリ」
「・・・はい、」
「愛しています」
「・・・・・・・・・」


音は神経を、骨を、精神を伝って脳に響く。
湿り気を帯び、3度低い声色での睦言は ―― 譬えて言うなら ―― ベルベットのように。
するりするりと滑るくせに、その心地良さから触れた者を離れさせようとしない。
虜を作り出す術者の如く、私は。

浮かされていくのを、知っていて尚。

押し返そうとする手の平を胸元に感じ、飲み込むかのようにこちらから押し付けていく。


「戯れが・・・過ぎます、」
「戯れ?」


こんなに、


「こんなふうに、貴方に接していても?」
「? ・・・・・・師匠?」
「私は」


中指、人差し指、そして親指を使って。
貴方の顎に手をかけて。その瞳に、瞼に口づける。
雨のようにね。 瞬きすら許さない俄雨のように。
触れるだけ、を繰り返す。
左目に飽いたら右目へ、それにも飽いたら高く通った鼻筋へ。
揺れる睫毛、動揺?それとも?


「今とても、貴方を独占してしまいたい。
出来ることなら外へも出したくない。陽の光なんていらない、水の反射する眩さで貴方を照らしたい。
その足を地に着けることなく、ただ深い水の中に漂わせてみせたい・・・」


一言一言に、瞼の向こうの瞳が不安げに揺れているのがわかる。
開いてしまいたいはずのその重い幕を、ずっと引き止めさせているのは私。
開かなければ舞台は始まらない。袖の幕引き役の手に、舞台の命運はかかっている。
まるでオーバーチュアの中、ひとり高鳴る胸を押さえてソロを準備するプリマドンナを見つめるよう。



「私が、否定を忘れてしまっても、ですか?」



「否定は ―――― 私が望んだ時で構わない」



知っているでしょう、臆病だということを。

だからミクリ、



「その目を開くのは・・・貴方が私のものになってから、ですよ」


さぁ、決めて。



「貴方が開くのは、私だけを見つめると誓う瞳ですか?
それとも、私から逃げ出して貴方が一目散に向かうべき出口の扉ですか?」





(fin)


中原家の一族のサイドさまから!
この世で貴重すぎるアダミク、いただいてしまいました。
まるで水の中にいるような、こういう雰囲気、出せる技術に憧れます……!
ありがとうございました。

 
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