カレークエスト



1.図書整理のカルメ姫



 ライランザ城のカルメ姫はその日城の地下にて書庫の整理をしていた。
 ライランザはこの世界で1,2を争う学問の国で、その蓄えられている書庫の数もすさまじいものだった。
 それが、先の大きい地震で棚という棚が倒れ、本はあたりに飛び散り、見るもむごい本の山となってしまったのだった。
 まもられていた秩序、本の並び順ももはやどこへやら。
 姫は赤、青、その他さまざまな色(といってもみんなほぼくすんでいる)とほこりに囲まれ、ちょうど半日が過ぎるところだ。
「ふう……」
 本たちから顔を上げ、手で額をぬぐう。その顔は憔悴しきっていた。が、同時に興奮のために頬には赤みが差していた。
「さすがはフナイ王国と並び学問で名を上げるライランザ。ものすごい情報量だわ。」
 近くにあった本の一つを手にとってパラパラとページをめくった。そして、なにやら興味深い内容を発見したらしく、あるページでぴたっとその手を止めた。
「惚れ薬の作り方」
 そのとき本の山の向こう側からハッハッ、と笑い声が響いた。
「姫様、どなたか意中の方でもおありで?」
 声の主は、姫と一緒に本の整理をしているこの国一の学者であり、姫のよき相談相手でもあるバルト・スターナー。
 かなりの高齢で、その象徴であるような長く白い髭を生やしていた。が、今はその髭は邪魔らしく、かわいらしくみつあみに編まれ、さらにきわめつけとばかり、ピンクのリボンで結ばれていた。……さっきカルメ姫がやったのだった。
「い、いえ。そういうわけではないのですけど……。」
「姫様ももう十八。お年頃ですからなあ。」
 バルトは妙にしみじみとつぶやくのだった。
 一国の姫は、お年頃。カルメ姫は先月十八になり、美しく、賢く、清らかな理想の姫へと成長した。バルトは満足げに本のむこうの姫をみやった。美しさもさることながら、姫の賢さ、学術の優れた点においてはバルトも賞賛するところ。将来が楽しみであり、男に生まれなかったのが多少悔やまれた。
「それで、そのお相手は?」
「ですから、バルト様。そんな方はおりませんよ。」
 姫はそういって笑った。
「フーリュウは。」
「え?」
「どうですかな、フーリュウは。」
 バルトはにやりと笑った。多少挑戦的な笑いだ。
 その笑いを、姫は受け流すような微笑で返す。
「わたしが彼に寄せるのは、厚い信頼です。それ以上でも、以下でもありません。」
「そうですか……」
 (こりゃ本当に何にもないな、この二人には。)
 バルトは残念そうにため息をもらした。
「のろのろしていると、どこぞの国に政略結婚にだされますぞ。」
「のろのろ……とはずいぶんな言いようですわねえ。バルト様」
 本の山の間から顔をのぞかせ、姫は言った。
「でも、政略結婚でもいいわ。それで国のために立つなら、価値のある結婚じゃないかしら……」
 まったくこの姫は。自分の幸福に関しては、人一倍疎い。
「本当の恋を知ってもまだそんなことをおっしゃることができたら、バルトは感服いたしますぞ。」
 そういいながら、そんなことは起こらないでほしいものだ、とバルトは思った。
「本当の、恋ね……」
 姫は折り重なる本たちの上に頬杖をついて、ぼんやりと視線をさまよわせた。
「……あら?」

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