レッドの素顔

孔明←レッド。
ちなみに残月も孔明が好き。若年うけする罪作りな孔明で。


「え、なんですと?」
「ええ、ですから、孔明殿なら、あのレッドの仮面の下を見るための策のひとつも思いつくのではないかと思いまして」
作戦のことについて聞くでもなく、残月はそんなことを言いに来た。


最近十傑集の間で話題になっているらしい。レッドのあの仮面の下にはどんな素顔が隠されているのだろう、と。
「あなたたちそんなくだらないことにかまけて……暇ですか? 手が空いているのなら、仕事はいろいろあるのですぞ」
残月は慌てて体の前で手をパタパタ、とふった。
「そんなんじゃありませんよ。忙しいからこそどうでもいいところに興味を見出すんです。仕事、ちゃんとやってますよ」
「ふうん……」
孔明はそれについては追求せず、
「レッド殿の素顔……十傑集のなかにも、見たことがあるものはいないのですか」
「ええ、だからこそ、今ちょっとみんなの興味の的なんです」
「それを言うのだったら……」
と、孔明は笑うと扇を上げて、そのふさふさした先でちょいと残月の顎を上げさせた。
「あなたも同じではないですか」
覆面の顔がはっとする。孔明が目を細めて覗き込むと、あわててその顔はそらされた。
「その覆面の下はどのようなものなのやら……」
何故か分からないが赤面してしまった頬は、覆面のおかげで孔明に見られることはなく。
孔明は扇を下ろし、すぐにいつものつまらなそうな表情にかわった。
「くだらないことにかまけてないで仕事なさい」
「は……っはい」
教師に注意された生徒のように。十傑集最年少の残月は、そそくさと孔明の部屋を去った。



残月が去ってから孔明は、くるりときびすを返し、部屋の奥へと向かう。
部屋の奥、寝室になっているそこで、くうくう幸せそうに寝息を書いているのはレッド。
いつものように、何の目的かこの部屋にやってきたレッドは例のごとくソファで居眠りをしていた。
こちらが仕事に追われているのに目の前でぐうぐう眠られているのも腹が立ったので孔明は、エンシャクに目に見えないところ……この寝室に追いやってもらったのだった。
「素顔……ねえ」
興味もなかったが、言われてみると妙に好奇心が湧いてくるものだ。

孔明はレッドの仮面を、目を細めて見つめた。
簡単なことのような気がした。仮面をはがすことくらい……策も何も、必要ないのでは。
幸いよく眠っていることだ。
そう思い、孔明は手を差し出た。指先をレッドの仮面の端にかける……
とたん。
バシュ! と風を切るするどい音があたりに響いた。目の前が、真っ黒になる。
一瞬のことで、孔明には何が起きたか分からなかった。……が、一秒後、カラン、カランと金属の何かが床に落ちる音と供に視界が開けた。
なにが起きたのだ?
目の前にレッドはいない。かわりに横に、アキレスが身を低くして構えている。今落ちたのはくないが2本。アキレスの警戒する視線の先……上を見ると、レッドが天井に張り付き、こちらをうかがっていた。
どうやら、仮面に手をかけたのと同時に覚醒したレッドが天井に逃れ、放ったくないからアキレスが孔明をかばった、ということらしかった。
天井に張り付いていたレッドは、すぐに音もなくベッドの上に降り立った。
「孔明をやるつもりじゃなかった、驚いて反射的にやっただけだ」
孔明とアキレスに言い訳すると、役割のないことを把握したアキレスは床にとけるようにして消えた。
「……いつの間に、こんなところで寝ていたんだ……?」
ここが寝室なのに気付いてレッドが不思議そうにする。
「ソファでねむるあなたが目障りだったのでコエンシャク殿にここに除けていただいたたのです」
「それよかお前、私の素顔に興味でもあるのか」
「ええ」
と孔明が答えたのでレッドはなんだかどきっとした。
「残月殿が言っていたのです。十傑集がレッド殿の素顔を気にしていると。言われてみて興味が湧きましてな……でも、そんなに嫌がることなら、別に」
孔明はそれだけ言って、くるりときびすを返す。
「まて」
「?」
おもわず引き止めていた。
孔明が興味を持つとはめずらしいこと。もう少し……彼を引き止めておきたいなんておもってそう言ったが、なんの考えもあるわけではない。
レッドはちょっと考える。彼の速い回転の頭脳は、ひとつの単語を導き出して、それは口をついて出る。
「これは呪いなのだ」
「呪い……?」
「ああ、そうだ。呪い」
またちょっと考えてから、……何か面白いことを思いついたらしい。にやりと笑う。
「はずすことができなくて、困っている。……仮面の真ん中に、」
とレッドは自分の額を指差した。
「誰かの口付けを受けるとこの仮面は呪いが解け、壊れてはずれるらしいのだが」
レッドの始めた荒唐無稽な話に孔明は興味を引かれたふうで聞き入っている。レッドは続ける。
「誰でもいいというわけでもない。それは私が命をかけて守る、運命の人物からのものでないと、はずれないそうなのだ」
「ほう」
孔明は扇を翻した。
こんな話が本当と思っているわけもない。レッドがこういう話をする、という状況を面白がっているのだろう。
「孔明、試しに口付けてみるか? もしかしたらその誰かとはお前かも知れん」
お得意の、挑発する表情。それを形作って言うと、孔明はちらりとレッドを……その仮面を流し見る。
レッドはまたドキリとした。孔明の瞳は時折その視線ひとつで人の心まで操ってしまいそうな力を持つ。
孔明はそのまま少し考える。……それから、扇の内で何事か小さくつぶやいたのち、「ええ」とうなずいたのだった。
呪いを解くかもしれない口付け、試してみようではないか、と。
孔明が、まさかのってくるとは予想外。
「えっ」と、思わず言いそうになった声をレッドは飲み込む。そんなレッドの後頭部に孔明の手がかけられて、くい、と引き寄せられた。
至近距離で孔明と目が合う。それからあっと思う間に孔明はレッドの仮面……レッドの、眉間にそっと唇を触れさせていた。
そのまさかの孔明の行動にレッドは心臓が跳ね上がる想いだったが、さらにレッドの心臓を跳ね上がらせることには。
孔明が口付けを解くのと、ほぼ同時に……。
ピシッ――
口付けられた額の辺りで、亀裂の入る音がしたのだった。そして……
パキ!
仮面が、真っ二つに砕けて、落ちる……。
「!」
カラン、と乾いた音が響いた。
「ば、ばかな……!」
仮面が落ちて、素肌が外気に触れたのを感じつつレッドの瞳は、目の前の孔明が自分を見る瞳とぶつかった。遅いと知りつつ手が顔を覆う。
同時に、ボワン! 投げた煙幕が視界を遮断した。
「けほ、……ケホッ……」
孔明の気管を少し刺激して、煙幕はすぐに消えた。あたりを見回すとそこにはもうレッドの姿はない。


孔明の寝室から脱出し、このBF団基地の誰も知らないレッドの偵察用の通路に回避しながら、高鳴る心拍数を抑えつつレッドは不思議そうに割れた仮面を眺めた。
「何でこうもタイミングよく壊れるのだ……?」
これではくだらない冗談のそのままに孔明が命を懸けて守る相手ということになってしまうではないか。
思いつきの冗談のはずだのに、今の一連の出来事は、一体なんだったのだ。
なにやら納得がいかず、首を傾げて仮面よくよく見た。
「……あっ」
そこで、レッドは、自分の部屋へと音もなく走っていた足を思わず止めた。
二つに割れた仮面の上のほう。自然に割れたと言うよりはわずかだが圧力を受けて不自然にへこんだ……。
「これは、刀傷……? まさか」
そこで、レッドの頭にひとつの解答が浮かんだ。
「コエンシャクか! 孔明に嵌められた……!」
可能性として充分ありえる。
おそらく、孔明が不意の行動に出て不覚にも自分に隙ができたあの一瞬、コエンシャクが現れてこの仮面を砕いたのだろう。
そう考えると思い当たる節がある。
あのとき……孔明が「ええ」と言う前に。何かつぶやいた、あれがコエンシャクへの指示だったと見ればうなずける。
「やられた」
レッドは、二つに割れた仮面をカンっと床に投げつけた。
孔明に嵌められたことよりも、仮面を割ったコエンシャクの一撃に気付かないほど、孔明の額へのキスひとつなんぞに心を奪われていたことに腹がたつ。
殺戮のエキスパート、忍の名が泣ける。
腹が立ちつつ、けれどその問題のキスを思い出してレッドは、どうしようもなく頬が熱くなるのを感じた。

結局、顔を見られた……。
――この素顔を見て、孔明は何と思ったことだろう?
――案外つまらないものだとでも、思っただろうか。

ち、と舌打ちをして刀を抜いて、刀身に素顔を映す……その頬が冗談みたいに上気しているのを見て驚いてから眉をしかめた。
ふん、と息をついて刀をパチンと納め、レッドは足もとの仮面を拾った。
「この仮面、新調しなければな……今度は青にでもするか。マスク・ザ・ブルーだ」
言ってからくだらなすぎて、レッドは一人で声を上げて笑った

END


 

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