| さっぱり分からん アルベルト×孔明。
基本樊孔、そしてアル←セル。
鈍感で直感行動のアルベルト。
「なんだい、その傷」
久しぶりに本部に戻ってきたセルバンテスは、盟友アルベルトの痛々しい包帯姿なんて珍しいものを見て、心配するどころか、興味津々で聞いてきた。
ふんと鼻を鳴らしてアルベルトは葉巻に火をつける。
「ちょっとな……」
「ちょっと、じゃないだろう。君が傷を負うなんてそうとうなこと、何があったの?」
何? なに? と聞いてくる好奇心旺盛な子供のようなセルバンテスを、とてもよけきれない。
やれやれ、とアルベルトは紫煙を吐いた。
「樊瑞にやられた」
「樊瑞だって?! ……どうして??」
「さあな、わからん。さっぱりわからん。原因……のようなものはあるのだが、それでなんで樊瑞にこんなにこっぴどくやられなきゃならんのかわからん」
「その原因とは」
「孔明を押し倒した」
セルバンテスの瞳が珍しくも見開かれた。
「……詳しく」
その日、アルベルトは、いつになくいらいらしていた。
いらいらいら。……孔明の作戦はさっぱり訳が分からない。理不尽な仕事、雑用のようなことばかりやらされて、いい加減ストレスもマックスだ。それで文句を言いにいった。
執務室に入ると、孔明は窓辺で外を眺めていた。
乱暴にドアを開け入ってきたアルベルトを見ると、あいかわらず人を見下した上で皮肉ってへりくだっているような笑顔で孔明は迎える。
「おやひさしぶりですねえ……」
声が癇に障る。
アルベルトは詰め寄っていって、ここぞとばかりに仕事の不満を吐いた。
「大体、今回のことにしたって、下のエージェントを使えば良いだろう! 何でこんなお使いみたいなことばかりにかりだされなきゃならん、それに」
孔明は静かに聞いていた。
5分ぐらい、アルベルトがぎゃんぎゃんと文句を言うのを、扇で口元を隠して涼しげに聞いていて、言う文句も尽きたところを見切って言う。
「ふ、それだけですかな?」
その、あまりに人を小ばかにしたような声音と、態度に、アルベルトが、キレた。
「策士風情が、十傑集を、ナメるなあ!」
広げた手のひらを、孔明に向ける。
疲れもたまって珍しくもかっとなったアルベルトは怒りに身を任せ、あろうことか孔明に向けて衝撃波を放ったのだった。
脅しと思った孔明だが、その手に本当に光が集まったのを見てハッと驚いた顔になった。
そこから、衝撃波が放たれるまで一瞬の出来事……。
アルベルトが、孔明のその顔で彼が力も何もない、ただの人間の体だということを思い出し、しまった、と力を抑える。十傑集や、能力者が相手ではない。まともな人間がこれをくらえば飛び散って蒸発してしまう!
そう思いとめようとして力を抑えた結果……。
ドン!
「!!」
吹っ飛ばされた孔明は奥の壁に肩をぶつけて、ずるり、と座り込んだ。
アルベルトがとっさに力を抑えた結果、衝撃波は普通の人間を後ろに吹き飛ばすくらいの、力となって孔明を打ったのだった。
「へえ……よかったねえ。殺しちまったらそれこそ君が今頃生きていまい」
「ああ、ひやっとした」
「で、? そこからどんな心変わりで孔明に手を出すことになるんだ。君、ああいうの好みじゃないだろ……ていうか、男に興味ないとか、言ってたくせになにやってんの」
心なしか、セルバンテスの言葉が冷たい。なぜかはアルベルトによく分からない。
「それは……まあ」
アルべルトが、決まり悪そうにする。セルバンテスの言うとおりだ。
コホン、と咳払いをひとつ。
「思わず、というか、男のホンノウというかなあ……」
壁に打ち付けられくずおれた孔明に、アルベルトは慌てて駆け寄った。
「すまん……かっとなって」
ここからが、予想外のおかしな展開になる。
孔明はというと、何が起ったか分からない、というふうに壁際の床に座り込んで目をぱちくりさせ、上がった心拍に翻弄されるように肩で荒い息をしている。
アルベルトの衝撃波は、それが直撃した孔明の上半身のスーツを、あっけなく破き散らしていた。それでほとんど日の目に触れない孔明の白い肌が晒される。いつもはしっかり後ろへ撫で付けている髪がばらりと落ちて額にかかっていた。
駆け寄ったアルベルトは、しゃがんでこの孔明に対面し、思わず目を奪われた。
乱れた孔明……
そんな言葉を頭に思い浮かべつつ、アルベルトは彼を起こすために差し伸べようと思った手も中途半端なままに、孔明から目を離せずにいた。
この孔明の姿を前に、なにか、よくない心の動きが、ぞわりとからだの奥でうごめくのを感じたのだ。
どく、どく、重苦しく血が体を駆け巡っては……。
官能、を、刺激、する……。
「……なんてことを」
と、やっと自分が衝撃波を食らったなんてあるまじき事態に出会ったのだと理解した孔明は、乱れた前髪の間から不満の瞳でアルベルトをにらみ上げた。
が、そこで、アルベルトが、まじまじと自分の体を見ているのに気付いてはっとした。
服は。
例の衝撃波で無残にやぶかれて体を隠していない。
ひとまえに肌を晒すなど……!
羞恥心から、急に頬に熱が集まった。頬を真っ赤にして、孔明はあわてて手と、まだ持っていた扇で視線に晒されている素肌をさっとかばう。
だが、どうやら恥らった孔明のその行動こそが、決定的に彼、アルベルトに「変なスイッチ」をいれてしまったらしい。
アルベルトは自分の理性が、パキンと折れた音を内に聞いた。
瞳の色が、さっきまでの怒りとは全く違う色合いを宿したのは孔明も気付いたが、それが何なのかなんて、まさか思いつきもできなかった。
アルベルトは「乱れた孔明」に、おもわず欲情してしまっている。
それがわからぬ孔明は混乱する。
「恥かしいんですよ」、と言う動きを見せた。一般常識を持つ頭で気を使って視線を離してくれるのを待っているのに、目の前のアルベルトときたら視線を逸らさないどころか、孔明にみつめ入って何もせずそのまま。
なにを考えているのかと思った次の瞬間、ぐい、と肩を押された。壁に押し付けられるようにして、アルベルトに体を寄せられる。同時に頭が落ちて、孔明は首すじに熱い唇を押し当てられた。
「……は?」
と、疑問の声を孔明は出したかったのに、それが快感をえていやがうえにも「はんっ……、」と鼻を通したような変に甘い声になって口から出ておどろいた。
首すじにキスをされつつ、手が無防備な体をなぞってくる。
何をする……?
「な、なにを……あ、アルベルト殿、正気か」
「正気ではない。……許せ諸葛孔明」
まだ孔明の腕に残っていた破けたスーツとシャツが、ずるりと下げられ、二の腕の内側をアルベルトの指が這う。
「あっ」と、従順に上がる声を孔明は飲み込んだ。「おやめなさい……!」
必死の思いで押し戻そうとする孔明の力はなんとも弱々しいもの。アルベルトの指の動きひとつですぐに力が抜けて孔明は抵抗どころではなかった。
体をなぞる度に耳元で上がる、あん、とか、はん、とか、耐え忍ぶわずかな孔明の喘ぎ声の、予想外に色っぽいことにアルベルトはいよいよ欲情して、手を下肢にかける。
体を疼かせつつ本当に身の危険を感じた孔明が、この場を何とか切り抜けようと身をよじった。
そのとき
「樊瑞が、入ってきたわけだ」
思い出すのもいや、と言うようにアルベルトがつぶやいた。
「おい、孔明」と入ってきた樊瑞が、見たのはアルベルトに組み敷かれた孔明だった。
その服が破れていることだとか、孔明の頬が染まって、乱た息の間あいだからうわずった甘い声が漏れているところだとかそういうものを確認したのとほぼ同時に、あたりにはばからぬ尋常じゃない殺気が満ちた。
アルベルトがハッと顔を上げたところ、
「アルベルト、きさまア!」の声と供に銅銭がいくつも、武器として容赦なく自分を刺し貫こうと向かってくるところだった。
「!!」
とっさながらも完璧なアルベルトのガードにもかかわらず、ガガガ! っと、そのいくつもの銅銭が体を襲い傷つけた。さらに間髪いれずに彼が投じた札のようなものからすさまじい炎が巻きあがり、火の玉となってアルベルトに襲いかかる。
「うおっ……!」
火の玉がすさまじい勢いで直撃してアルベルトをふっとばした。
うしろのガラス窓に体をがしゃんと叩きつけて勢いおさまらず、ガラスは割れて、アルベルトは外に放り出されたのだった。
「それでこんなだ。あんな殺気だった樊瑞ははじめて見る。いくら十傑集同士争うことはあっても、あんな本気で殺しにかかってくるのを見たことがない。何で自分が半殺しにあわなければならない……なぜだ。わからん」
「きみが、孔明に手を出したからだろ」
どこか、つまらなそうにセルバンテスが答えた。彼ときたら、いつもならこんなネタに好奇心でキラキラしていそうな目を、今回ばかりは曇らせて面白くなさそうに冷たく言うのだ。
「ワシが孔明に手を出して、どうして樊瑞が怒る」
「樊瑞が孔明を好きだからだ」
「ハアっ……?」
思いつきもしなかったようで、ぽかんと開けた口から葉巻が落ちた。
「まさか。あの二人と言ったら、犬猿の仲ではないか。樊瑞に限って孔明を好きだなどと、そんなことはなかろう」
「きみってさア、そういうことに関してひどく鈍感だよね」
忌々しく言うセルバンテスの言葉はやはり、冷たい。
なんで彼が機嫌が悪いのか、アルベルトには図りかねた。
「何を怒っているんだ」
「べつにー」
と、いいつつ、セルバンテスはむすっとする。
「孔明って、そんなにいいんだ? 男に興味ないとか、言ってたきみが思わず手を出しちゃうほど?」
アルベルトはフクザツな表情をしたが、何を思い出したのか、ふと表情がゆるむ。孔明の色っぽい喘ぎ声のひとつも思い出したらしい。
「まあ、……なんだな。想像もしてみろ、あのいつもすました孔明の、服がやぶれて髪が乱れて、それを恥じて頬を染める……なんて状況だぞ。下手な女より、よっぽどそそられ……」
つぶやきつつ、落ちた葉巻の代わりにもう一本、くわえて火をつけようとしたところに、いきなりアルベルトは、ばちーん、と平手打ちをくらって、葉巻はふたたび床に落ちた。
「……セルバンテス?」
いきなりの平手打ち、その訳が分からなくてアルベルトはぽかんとする。
「きみなんて、嫌いだ!!」
「は?」
セルバンテスは真っ赤になっておこって頬を膨らませたまま、くるりときびすを返し、そのままつかつかと去っていってしまった。
「……なんだ? 何を怒っているんだ」
セルバンテスの背中を眺めつつ、またアルベルトには、訳がわからない。
鈍感なアルベルトには、セルバンテスの彼に向けられる恋心も、樊瑞のフクザツな恋心も、何もかも分からないから不思議そうに目をぱちくりしているだけしかない。
「……わからん、さっぱりわからん。なにもかも」
床に落ちた葉巻を拾って、昨日の大怪我と、今の平手打ちの後の痛みをジンジン感じながらアルベルトはそれにボッと火をつけた。
END
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