待ってますから。

ゴヨウ×デンジ……?


 

ナギサのジムリーダー、デンジはこのごろ、悩まされていることがあった。
ポケモンのバトル、自分の仕事とは関係ない、恋愛の分野がやたらとごちゃごちゃしていてデンジを悩ませる。デンジはそういう類は何となく苦手で困っている。
かくじつに、恋愛、と決まったわけじゃないのだ。ただ、最近……仲のよい人達が自分に寄せる視線は、そういう類のもので、気付いてしまったからややこしい。

仲の良い人物……一人はヒョウタで、一人はオーバ。

二人がそういう対照として自分を見てくる。その視線に、ぶっきらぼうだが鈍感ではないデンジはとっくに気付いていて、それで悩んでいる。
恋愛は苦手だ。どちらとも友達でいたい。どうにかならないものか……。



と、そんなことを思ってしばらく悩んでいたところに、あるときをきっかけにその悩みが自然にやんわりと解決されていって、デンジは不思議に思う。自分はなにもしないうちに、二人との関係はのぞましい友人関係へと、元に戻っていた。
ほっとすると同時に、デンジにはちょっと気になったことがあるのだった。


「……で、ゴヨウさんが地下でね」
ヒョウタが話す言葉に最近、ときおり織り込まれるようになった単語……名前にデンジは、またか、と思った。
ゴヨウ……最近よく聞く名前だ。昨日も確か聞いた。それはどこでだったろうか……?
ああ、オーバとの会話の中でだ、と思い出す。
彼もその名をやたらと口にしていた。ゴヨウが、ゴヨウが、と繰り返していた。


おかしなこと。自分を悩ませていた二人が、その悩む要素……つまり、恋の心を消したと同時に口にしだした名前のゴヨウ。
どういうことだろう。偶然なのだろうか。デンジは首をかしげる。
ゴヨウといったら、たしか四天王最強の人物だ。自分はそれくらいしか知らない。
だがここに来て俄然興味がわいてくるのをデンジは感じた。
ゴヨウ……か。
強いってだけでも元から興味はあった。自分はジムリーダー最強だが、彼は四天王最強。
その格差は、悔しいことだが、歴然としている。
このシンオウで、彼はbQ。彼を倒して初めて最強シロナにチャレンジできる最後の難関なのだ。

それにしてもなぜ、いまさらヒョウタもオーバも、口をそろえたようにそのゴヨウの名を口にする……。
自分の色恋にうとい思考でも簡単に想像はつく。きっと二人はゴヨウに惚れているのだ。
で、どうしてここにきて二人がいっきにゴヨウに惚れるのだろう。
なんだか不思議でデンジの最近の思考は大抵そこら辺をさまよっているのだった。

そんな中、不意にゴヨウと触れ合うキッカケがあった。
デンジが珍しくも、ミオの街まで本を探しにいったとある休日、ミオの図書館。そこに居合わせたのは姿ばかりはあちこちのメディアで取り上げられているので良く知っている、ゴヨウ。
同じ階の、同じ棚、同じ本に同時に手を伸ばし、伸ばされた手にはっとしてお互い視線を合わせたその相手……。
――あ、ゴヨウだ。写真の通りの紫の髪……。
紫の髪は雑誌の写真よりも鮮やかに。優雅に揺れて目の前にある。その髪の、前髪に半ば隠された、色眼鏡の奥の瞳がデンジを捕らえる。
デンジは思わずその瞳に見入った。紫の髪のゴヨウはまた、その瞳もキレイな紫色。ゴヨウ自身も、こんな場所での思いがけないデンジとの遭遇に驚いているようだった。
「ナギサジムの、デンジ」
とつぶやく。図書館という空間に配慮を利かせた声は小さかったがそれが不思議にデンジの心を捕えた。
低すぎない、高すぎない、きれいなテノールの声だ。
デンジは男がこんな類の聞き心地のよい声を出すのを知らない。
その声が、自分の名を呼んだこと、それになんだかどきどきしていてデンジは瞬きして音色を飲み込む。
こういう場合に何もいえずに不器用なデンジが固まっていると、ゴヨウは男のクセに変に色気のあるような瞳で笑った。
「はじめまして。……こうしてお会いできて、嬉しいです」
「……?」
「どうですか、少しは、楽になりましたか? ……バトルに集中できるくらいには」
「なんのことだ?」
「恋のことで……悩んでらしたでしょう?」
「?……ああ……」
「オーバもヒョウタも、私が惹きつけておきますから、あなたはバトルに専念なさい」
「え?」
デンジが心底不思議そうに聞き返すとゴヨウは笑った。
「精進なさい。今は、あなたは、ジムの改装や、恋なんかに煩わされている場合じゃない。あなたが来るの、楽しみにしているんです。強くなって、早くここまで……四天王の四番手の私の元まで、来てください。あなたのまだ表層に出てきていない才能に、私は惹かれている……」
二人が同時に手を出した本を引き抜いて、ゴヨウはそれをデンジに渡した。
瞳が、これからバトルでも始めるような殺気を持って強気に微笑む。
「待っていますから」
そう言って、ゴヨウはその場を去った。
しばらく呆然としていたデンジが、はっとして振り向いた時にはもうゴヨウはいない。
待ってますから……
その声が、頭でまた響く。
それでは、オーバも、ヒョウタも、ゴヨウが意志を持って何とかしたというのか。
自分にバトルに専念させるために……?
自分の力を見込んでここまで来い、と。言ってくれるのか。あのゴヨウが。
デンジは変な心の高鳴りを感じた。
バトルで強くなって、四天王に……。
デンジはひとり、こくんとうなずいた。こんなことしている場合じゃない。
早く、強くならなきゃ。
何だかいても経ってもいられなくなって、デンジは駆け出し、図書館を急いで出た。

END


この話……ゴヨウとデンジ、二人を引き合わせるためだけの
小道具のように扱われるオーバとヒョウタが不憫で仕方がない……。

 

 

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