| 押しかけセンリ センダイ。
基本的にはダイルビ(ルビダイ?)。
いら いら いら……
ハタで見ていてその擬音が聞こえてきそうだ、と思ってダイゴはハラハラしている。
目の前のセンリはあからさまに機嫌の悪い様子で腕を組み、このトクサネのダイゴの家の玄関口に立ち、中を見渡していた。
何でこの人がこんなところにいるのだ。せっかくの休日に。
久しぶりの休日に自分の家でくつろいでいたところ、とんとん、と戸をたたく音がして出てみれば、そこにいたのは青天の霹靂、最初っから不機嫌そうな顔を見せるセンリだった。
彼を見てダイゴがハッと思った彼の肩書きは、「ジムリーダーのひとり」と言うよりは「ルビーの父親」だった。
いやな予感がした。
「お前が、ルビーの恋人だって言うのか……ダイゴ」
このセリフ……今、彼にダイゴが思った肩書きは用件として間違いではなかったようだ。
「ええ、そうですが」
と、しらっとしてダイゴが答えた。ここで弱気に出たら付け込まれる、負ける気がする。
――ここに来てバレたのだろうか? ルビーとの関係が。
ルビーは言っていた、父親センリはそういうことには厳しいから絶対に付き合ってるなんてバレないようにしましょう、と。自分はばれるようなことをしてないと思う。だったらルビーの方で何かあったのか……。
だとしたら非常に厄介な状態に面しているわけだ。目の前のセンリはとてもじゃないが2人の恋を応援してくれるような雰囲気ではなかった。
まけるものか。
ダイゴは不敵な笑みを見せた。
「なにか、問題でも? 多少は自惚れも含めて言いますが、僕はバトルの方としては最頂点のチャンピオンだし、いずれは父の会社を継ぐつもりですから将来も心配ない。恋人としては申し分ない」
「どこまでいったんだ」
「……は?」
いきなりの要点を絞って聞かれる質問にダイゴは聞き返し、すぐに意味を理解してうろたえる。
どこまでって……最後までいっちゃってますけど。
そんなこと、素直に言えるものか。いったらどうなるか分からない。
だが。
「キスはしたのか」
「え……ええ」
有無を言わさない、誤魔化せない瞳の鋭さと真剣さで聞いてくるのにダイゴは素直に答えるしかなかった。
「ルビーを抱いたのか」
「は……は、い」
「……最後まで?」
その質問に、迫力に圧されて結局ダイゴは思わず素直にうなずいていた。
くそ、とセンリが低くつぶやく。
こわい。
ますます機嫌が悪くなるセンリ。ダイゴは誰か助けてくれ、と神に祈った。
逃げたい。でも入り口をセンリにふさがれているので逃げられない。
そしてたぶんこれはルビーと付き合って行く上では実際避けられない戦いなのだろう。
……この、親バカが、とダイゴは心の中で舌打ちした。
あんなにルビーに冷たい対応をしていながら、おそらく彼が大切でしょうがないのだ。
そうでなければわざわざ休日使って恋人の下へ不機嫌そうに押しかけてくるはずもない。
そう考えたダイゴの思考は、だがしかし微妙に間違っていたのだった。
「何でルビーなんだ」
「……魅力的だからです」
「ほかではダメなのか」
「……ダメです。僕は、あなたになんと言われてもルビー君ひとすじですよ」
しばしの沈黙の後、ち、とセンリは舌打ち。
「私でも、ダメなのか」
「ええ、あなたでも。」
答えて二秒後、ダイゴは首をかしげた。
「… … ん?」
何か今、とんでもなく見当違いなことを言われた気が。
「今、何と」
「私ではダメなのか」
センリは素直に繰り返す。
その瞳は怒りを込めて、しかし真摯にダイゴを見つめていた。
私ではって、それは、どういう意味だ。誰の相手が私でも、と……。
言葉を理解しようとした上でのダイゴの混乱。
誰って、今は自分が、相手がルビーじゃないとダメだという話をしていたところじゃないか。と言うことは、「ダイゴの相手に、ルビーの変わりに、わたしでは……」。
「えっ」
やっと正気に戻ってはっとしたダイゴが顔を上げてセンリを見ると、センリはますます不満そうな表情だった。
その表情で言われるセリフじゃない。まて、言ってることはわかったがリアルに事態を飲み込めない。
「ま……まさか、まさかと思いますが、あなたが好きなのは……」
ダイゴが恐る恐る自分を指差すと
「そうだ」
と、短く答えて、いきなりどさりと押し倒された。
「??」
ダイゴは頭のなかが真っ白になった。ものが上手く考えられない。
展開が、意外すぎて、急展開過ぎて、ついていけないぞ!
「ま……まって!」
ほとんど叫ぶように言うと「いやだ」とセンリが答えて、瞳が押し倒されたダイゴを覗き込む。その気迫、あまりの真剣さに床の上、身動きとれないダイゴは息を呑んだ。
「どうして、ルビーなんだ。あんなガキ……私では、だめか、ダイゴ」
そういって、きつく閉ざされているシャツの襟元が難なく解かれて、センリが首筋に口付けてくる。
ちょっと首筋を唇に触れられただけでダイゴは変に感じた。
「あっ……ちょっと、落ち着いてくださいよセンリさん! あなたは妻子持ちじゃないですか!」
何とか逃れる理由を紡ぐ。
「でも好きになってしまったんだからしょうがないだろう」
しょうがないだろう? その言葉とともにさっきとは打って変わった、切ない想いの色目がダイゴを覗き込んだ。
ダイゴは、うっ……と言葉に詰まった。
ここへきていきなり不機嫌を解いてのその瞳は、反則だ。
彼がまさか、そんな表情するなんて…と思うほど意外なほど、センリは魅力的に、色っぽくダイゴを見つめてくるのだった。
そのギャップと、変な色気……。
よく知っている。その瞳は、ルビーと同じだ。
こんなふうに見つめられては、やばい、惚れる……とダイゴは自分の中、どんどん上がっていく心拍数に焦った。
その瞳のまま「好きなんだ……」とセンリに告げられて、再びのキス。今度はダイゴの唇に。
予想もしなかったほど丁寧で優しいキスで、ダイゴはヤバイと思う。
やばい……上手い。
首を振ってキスから逃れると、逃れた先でまた口付けられる。
こんなキスでは体が力を解いて、キスを楽しもうとしてしまう。
どきどきしながらダイゴは焦った。
だめだ、だめ。このままでは目の前の本気のセンリに、心も体も負けてしまう。それはいけない、誰か助けて!
――ルビー君、助けて!
……と年下の恋人なんかに助けを求めてしまったそこで、
がん、と鈍い音が上の方で響いた。何の音だろうと思っているといきなり覆いかぶさるセンリの体重がかかる。だめだ、もうにげられない……とダイゴは思って、しかしそれから何も進展が起きない……。
「……?」
不思議に思っていつからかぎゅっとつぶっていた瞳を開けると、同時にセンリの体重から解放された。
視界に映ってきたのは今助けを求めた相手、ルビー……。
センリの腕を掴み、ダイゴから引き離しているところだった。
そのセンリはぐったりとして抵抗もない。ルビーの近くには置物の花瓶……鈍器。
「危ないところだった。……ダイゴさん大丈夫ですか」
「え、ああ、まあ……」
どうやらルビーがセンリの頭でもその鈍器でたたいて気絶させたらしい。
完全にセンリを離させたルビーは、ダイゴの手を取り、上半身起こさせる。
「本当に、大丈夫ですか? 父さんに惚れてしまったりしてないですか」
するどい所を聞いてくる。
「それは……ちょっと危なかったけど、何とか大丈夫」
そういうと、ルビーは露骨にほっとした表情を見せてするりとダイゴに抱きついた。
「ちょっとヘマをして父さんに恋人がダイゴさんだとばれてしまって……ライバルが僕だなんて知って、いても立ってもいられなくなったのだと思います。今日は休日なのにどこにも父さんがいなくてもしやと思って……あわててここまで来てよかったです」
それから口直しです……とルビーはキスをしてきた。
「……君の父さんは……」
「ええ。父さんの好きな人はダイゴさんです。ばれたらやばいと思って注意してましたが、思わぬところからばれてしまいましたすみません」
……と、今度はお詫びのキス。
なんとなく、そこでダイゴはルビーはセンリの子なのだな、と変に納得した。
「父さんは恋愛不器用なくせに変なところでに相手を魅了しますから……厄介な男です」
それは君も同じじゃないか……と言おうとした言葉を、ダイゴは言ってもどうしようもないな、と押しとどめた。
全くこの親子は変なところで恐ろしい、と思いつつダイゴはルビーのひたいのあたりにキスをし、「助けてくれてありがとう」となんとか笑った。
ルビーも満足したように笑いを返した。
END
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