| お疲れでしょう。 ダイミクダイ……?
というよりは、、積極的な受けのミクリ。
「あー、疲れた疲れた」
部屋に通すなり、ダイゴは柔らかなすわり心地のソファーしか見えていないようだった。
まっすぐソファーのところへ行って、どっかと座って背もたれに頭を預けてぐったりする。
「お疲れ様」
ミクリは熱いコーヒーを入れてきてダイゴの前に置いた。
「ありがと。……やっと、ちょっとだけ時間が出来たよ。ほんと会うのも久しぶりだね」
「ああ。ほんとに……忙しそうだね」
「まったくだ。あと二週間ぐらいかかるかな……まだまだ忙しい」
このころデボンは忙しい。なんでも経営拡大だとかなんだとか、ミクリには良く分からないのだが、ダイゴは仕事に捕らわれていて、なかなか会うこともままならない。連絡もそんなに出来ない。
「はーあ。あ……これ、おみやげ。何か違う研究部所なんだけど、香水開発しているところが、試作品をくれて。深海の香りだとか。彼女のプレゼントにでもどうぞってんで、君に」
「あ……ありがと」
小さなハコを受け取る。ハコを開けると水のしずくの形をした青い小さな瓶が出てくる。
「そのデザイン、どう? 彼女の反応聞いといてって言われたから」
「いいんじゃない? 女の子はたぶん、こういうの好きだよ」
「そうか。そう伝えておくよ……」
そういってまたソファーの背もたれに寄りかかったダイゴ。目は眠たそうに、開けているのもつらいというようにふうっと閉じられる。
ほんとに疲れたようなそのダイゴを、しばらく見つめていて、それからミクリはソファーの後ろに回った。
ぽん、と肩に手を乗せると、眠りそうになっていたダイゴが、はっと目を開ける。
「肩揉んであげるよ」
「ほんと? もうがちがちに凝ってんだよ。おねがい」
顔だけ振り返って苦笑いするダイゴに、ミクリは何となくどきりとした。
もう、ほんとにしばらくあっていなかったせいか、ダイゴに初めて恋したときのようなそんな錯覚がミクリはしている。
ダイゴの肩はほんとにがちがちで、こんなの揉んだぐらいじゃどうしようもないような気もした。
スーツ越しの、体格が手に伝わる。見た目より、意外としっかりしている体。体温が低い、血流が良くないんだろう。
なんて考えるよりもなによりも、久しぶりに会ったせいで、近い距離にいるってだけでミクリの心はドキドキしている。
「あー、きもちいい……ミクリは肩揉むのもうまいよね、うん。……あ、そこ。…あ」
「あ」とかなんとか、言うダイゴの声音は、疲れているせいか、力が抜けてヘンに無防備で色っぽいのだった。その声を聞いていて、肩を揉みつつミクリはなんだか頭がくらっとする。もしくはムラっとくる。
……。
実はこう見えてミクリは欲求不満。
普段から勤めてクールに振舞ってはいるが、その心は淋しがりで常に人の温みを求めているし、体は正直で、どうしようもなくダイゴを求めている。
もう2週間も好きな人、ダイゴに仕事を言い訳にほおって置かれて限界も近いところだった。そこでのこの再会。
でも理性がしっかりした人間でもあるので極力欲は抑えるし、気遣いも心得ているのでダイゴを煩わせるようなことはしないようミクリは心がけている。だからダイゴをこれ以上疲れさせるようなことはしない。
……でも。
やっぱりいくらかは抑えられない。
ミクリは肩を揉んでいた手をふと解いて、そのままうしろから腕をダイゴの首に回してだきしめた。
額をこつんとダイゴの後頭部にあてる。
「……ミクリ?」
名を呼ばれると、血が熱くなる。ダイゴの声が、すごく好きだった。
「仕事の合間をぬって、会いに来てくれてありがとう」
「ああ……ほんと会えなくて、ごめんね」
ミクリの息が、ふとダイゴの耳にかかる。ダイゴはなぜかどきりとした。次に、襲ったのは耳を甘噛みされる感触。
「……あ」
ミクリの歯が当てられたところは痛みまでいかず、変な快感の段階で感覚が与えられて。
歯は耳の上の方から、外側、耳たぶまで甘くかみ合わされていく。
ダイゴはぞくぞくっと感じて、思わず息を吐き出した。
「ミクリ、もしかして僕は、君を欲求不満にしてしまっている……?」
「そんなことはない。……ダイゴ、仕事、がんばってね……」
耳元で甘くささやかれる言葉。
がんばって、早く終わらせてまた私に会いに来て。そしてちゃんと私を抱いて。
と、ダイゴはミクリの言葉を受け取った。
ミクリの歯はダイゴの耳たぶをゆるく噛んでそのまま離されて。
ちゅ、と頬にキスをして終わりだった。
それからミクリはまた何事もなかったようにただダイゴの肩を揉む。
「仕事は……がんばれば一週間で終わる……がんばるよ」
「うん。だけどあまり無理はしないで」
といってミクリはダイゴのデスクワークでがちがちに凝り固まってる肩をうまくほぐした。
「うん……」
あの香水は、実は自分のデザイン。偽ったけど、ミクリは肯定してくれた。
香りも実は、自分が調整したのだけど、気に入ってくれるだろうか……。
肩をもまれながらダイゴは思った。
仕事をしながらも、ダイゴはミクリのことばかり考えている。
今は女性に向けた商品の分野を扱っているから、その恋心はプラスになる。
ミクリの喜ぶことを考えて賞品をプロデュースすれば、大抵は間違いは無い。
だけど、結局当のミクリを、あまり喜ばせてあげられていないというのが現実だった。
それがダイゴにとってはくやしく気がかりなこと。
「……キスを」
と、ダイゴはつぶやく。
「え?」
「次会うまで、少なくとも、一週間はかかるんだ。……キス、しようよ」
「ああ、うん」
と、答えたミクリの頬が律儀に染まったのが限りなくいとおしい。
ダイゴはいままで肩をもんでくれていたミクリを仰ぎ見る形でソファの背もたれに頭を預け、手を伸ばしてミクリの後頭部をたぐり寄せ、顔を引き寄せる……キスを促す。
ミクリはダイゴの手に引き寄せられるがまま、目を閉じた。
唇を合わせた……キスの感触を、ダイゴもミクリも何よりも大事なもののように自分のうちに刻み込む。
この先またいつキスをできるかわからない。だから、1回のキスがものすごく意味を持つ。
ずっとこうしていられたらいいのに……。二人の思いは交差する。
でも、限られた接触だからこそ、この1回に価値が増すのだろう。
そんなことを思いつつ、二人はくちびるをはなし、互いに恋する相手を見つめた。
「……今日は、とまっていく?」
「いや、まだ家でやらなきゃならないことがあるから」、とダイゴは答えた。
それにミクリはちょっと悲しそうにする。
その表情、あまりさせたくたいな……と思いつつ、ダイゴはいいわけのようにもういちどキスを求めた。
ミクリが応じる。
いつか、彼にそんな悲しそうな表情させずにいられる日は来るんだろうか、
そう思いながら、ミクリのためにがんばろうと、思いを抱えてダイゴは、少しのキスにこれ以上ないくらいの愛をこめた。
END
|