| テンガンザンの麓へ…… ゴヨウ+ヒョウタの地下探険話。
長い上に途中挫折で未完成……。それでもいいってかたはどうぞ。
「秘密基地のお引越し……気分変えですか?」
ヒョウタが笑って尋ねると、ゴヨウは苦笑いで「今までの基地の場所がリョウにばれてしまって」と返した。
ここは地下の坑道。あまり探険する人の少ないあたりをゴヨウとヒョウタで歩いていた。
「リョウさん……四天王の?」
「そうです。最近、地下で遊ぶことを知ったらしくて、あっけなく秘密基地の場所がばれてしまって。私は静かに本読む場所がほしいのに、ちょくちょく遊びに来るんですよ。これではリーグタワーとも、自宅ともほとんど変わりがない。実は地下へは彼から逃げるためにも来てたので……」
彼も、そうなのか……と思い、ヒョウタはゴヨウをちょっと見上げた。
ゴヨウの方が少し背が高い。
歩くと藤色の柔らかそうな髪がふわふわと揺れて、たまに何かのいい匂いがする。
「僕も、そんなようなものですよ。地上の人間関係に疲れたときはここへ。……僕の秘密基地の場所は今のところゴヨウさんだけしか知りませんから他の誰にも邪魔されない」
「はは、すみませんね……その私がたまにそれを邪魔しに行ってしまって」
ヒョウタはあわてて首を振った。
「ゴヨウさんは邪魔にはなりませんよ。嫌だったらさっさと基地代えしてます。よろしければ……もっとちょくちょく遊びに来てください」
それは本音だった。ゴヨウはたまにヒョウタの基地をのぞきに来る。それがヒョウタにはなんだか嬉しくって、ゴヨウが来ると妙にはしゃいでしまってる自分に気付く。
そして最近では一人で基地にいて、考えることもすることもないときなどはぼんやりと入り口の方を眺めてゴヨウが来ないか、なんて期待してしまっている。
ゴヨウといる時間はなんだか優しくて質が高くて。ヒョウタはとても好きなのだった。
だから今日このヒマな午後にゴヨウが基地を訪ねてきた時もヒョウタは喜んで彼をもてなした。
「丁度あなたがいてよかった」とゴヨウ。
どうやら新しい秘密基地を作るということで、あまり人に見つかりにくい場所をヒョウタに見立ててほしいというのだった。
地下をよく知るヒョウタはそれくらい朝飯前、ということでさっそくこうして人の行き来の少ないあたりで二人、基地の場所を探している。
人気がないあたりをしばらく歩き回ったところでヒョウタがいきなり立ち止まった。
「あれ? ここ……」
「?」
「ここ、なにかある」
かべに手をついて向かい合い、上のほうまで見上げる。
「また化石か何かですか?」
ゴヨウはここに来るまで何回か、こうしてヒョウタがいきなり立ち止まって「何かある」と言い出すのを見てきた。最初はナニゴトかと思ったが、どうやらヒョウタには歩いたときの音の反響等による微妙な変化で地質の様子やら何やらが分かるらしく、さっきもそれで一発で頭蓋の化石を掘り当てた。
「化石じゃなくて、何か、……空洞? やたらと大きいのがこの先にあるような気が。ただの空洞なのかな。……ゴヨウさん」
「はい?」
「ちょっと時間いただいていいですか? 気になっちゃって……」
「どうぞ」
にこ、とわらってゴヨウは返した。
ヒョウタは持ってきたドリルで、ガガガ、と土の壁を崩し始めた。
その手馴れた様子にゴヨウは感心する。1回、自分で基地を作るときにドリルを使ったことはあるが、ドリルは重いうえに結構な力を必要とするのでなかなかゴヨウには思うようにいかなかった。今度作るときはそれもヒョウタにお願いしようか、と思う。
そんなことを考えているうちに、「あ、」というヒョウタの声が上がった。
次の瞬間、ヒョウタのドリルは壁をつきぬけ、ガラガラ、とあたりの壁を上手く崩していた。
「うわー壁、薄いな……やっぱり中に何か続いてる」
ちょうど人一人通れるくらいにあいた穴からひょいと中を覗き込んで……
「あれ……? あ!」
と叫んでそのままヒョウタは一人ひょいっと中に入っていってしまった。
「ちょ、ちょっと、ヒョウタ……」
その後を追って、気になったゴヨウも今空いた穴の中に入る。
ヒョウタがあけた穴の先は、ただの空洞ではなかった。奥へと続いていくせまい通路のようなものがあった。
丁度大人が一人進むのにやっとな広さと高さ。先までの通路とはあからさまに作りが違うのがゴヨウにも分かった。しっかり人が通る道をして加工されている先ほどまでの坑道とはちがって、こちらの通路は作りが雑で、露骨に誰かが公のためでなく掘った、といった様子だった。
――こんな道の端に何かの目的のために……?
ひとりぐんぐん先に進んでいってしまうヒョウタを追ってゴヨウもその狭い通路を進んでいく。道はそんなに長くなく、すぐに終わりがくる。そこにヒョウタが立ち尽くしていた。
「ヒョウタ?」
先にヒョウタの驚いたような様子を見て、それからゴヨウは通路の先を見止めた。
ヒョウタの持つライトが照らし出す。急に目の前、視界が開ける。
そこはかなり広めのドーム型の空洞になっていた。今までの通路の作りとも違う。その前まで通っていた地下通路の雰囲気とも違う。
人の手が加わってないな、とゴヨウは見て取った。
天然の空洞、洞窟のようなものか。
「こ……ここは……」
ヒョウタは目をぱちくりさせながらあたりを見渡して、はっと思い出したように道具をあさって地図を出した。
それから食い入るように、じっとその地図を眺める……ゴヨウもその横から地図を覗き込んだが、普通の地図とは描き方も何もかも違う地下の地図。さっぱり分からない。
「僕、こんな場所知らない……何なんだろう、この場所は」
首をかしげていったん地図から目を離し、辺りを見回す。
天井がそんなに高くなく、広いここの場所からは、奥のほうにいく筋にも分かれた通路のようなものが見えた。
「ここは、どのあたりなんですか? 地上の位置で言うと……」
ヒョウタはあたりを一回り見通した視線をゴヨウに移した。
「ヨスガのあたりです。ヨスガの北東のほう……そう、テンガンザンのふもとのあたりまで来ていると思います」
もう一度洞窟の方を見て、それからきらっと光る瞳をゴヨウに向けた。
「僕、地下のことならほとんど知り尽くしてると思ってたんですけど、こんなところがあるなんて、知りませんでした。地図にもここら辺のことは詳しく記されてない……。ちょっとおもしろいもの見つけたかもしれません」
『それじゃ、ちょっと探険にいってきます!』とでも、今にも洞窟の奥へと行ってしまいそうな雰囲気だったが、さすがにヒョウタはそうは言わなかった。
「ちょっと気になることには……ここは、天然の洞窟ですが、ここまでつながっていたこの通路は、人の手によって作られたものだってことです」
「……つまり、誰かがここへ入るためにわざわざ通路を作ったってことですか?」
ゴヨウは今来た通路を振り返った。ここまで一直線に掘られた道。遠くの方にそれまでいた地下通路の常備の明かりが小さく見えた。
「ええ。まっすぐ掘られているってことはちゃんとこの場所に狙いを定めてきた、ということ。だれかが、何かのために……この先、どやら奥にいくつも道は続いているようだし、そこになにかあるのかな……ああ、どうしよう。すごく気になってきちゃった」
ハタから見ていてもうずうずしたようすで、ヒョウタは洞窟の奥のほうをながめる。
その表情が、急にはっと何かを思い出したようなものになった。
「そうだ、こっちがここにつながってるなら向こうは……?」
「え?」
ヒョウタは急にきびすを返して、今来た通路を戻り始める。
今度はなにを思いついたのやら。まるで自分がここにいるなんて忘れられているようなヒョウタの行動。ゴヨウは苦笑いした。
――本当に、こういうの好きなんだな。
なんとなく、判る気もした。自分もなんだかここにきてワクワクしている。
ここに一人いてもどうしようもないのでゴヨウはヒョウタの後を追った。
追う前にもう一度ちらっと洞窟の奥を見る。
テンガンザンのふもと……。
地下、テンガンザン……そのときふと、それらの単語が何かの記憶にちりっと引っ掛かかるのをゴヨウは感じた。
――シンオウの地下、テンガンザンのふもとには、巨大な、……――
過去に読んだ膨大な本の文章の中から何かの一文が浮かび上がる。
ゴヨウは歩き始めた足を一瞬止めた。……しかし文の続きはどうしても記憶から引き出せず。
今の洞窟の先をちらっと振り返り、また歩き始めてゴヨウはヒョウタを追った。
もどった元の通路で、先に行ったヒョウタは再びドリルを出していた。今通路があったのと反対側の壁にドリルを当てて再び壁を崩しにかかっている。
「今度は反対側ですか?」ときくと、ええ、と返事が返った。
「さっき、ちょっと気になってたんです」
「え?」
「なんだか、こっち側の壁にも何かあるような気がしてて……」
相変わらず手馴れた動作で削る壁は、話しかけのところで突如ガラガラ、とくずれた。
こちら側にも、やはり奥に空間があるようだった。
今空いたところは崩れ口が妙に整っていて、その様子は丁度人一人が入れる、まるで「入り口」のような。
今度もためらいもなく入って行ったヒョウタの後に続いて、ゴヨウも中に入った。
「あ、ここは……」
ヒョウタの持つライトが、狭い空間を照らし出す。
こちらは先ほどの壁の向こうとは違って、すぐに行き止まりになっていた。
代わりに、横にも広くなっていて、壁の調え方も、作りも丁寧で……その壁に沿って、いくつかの棚と、本棚、中央には机、奥にはパソコンが見えた。
「誰かの秘密基地だ」
思わずヒョウタとゴヨウはお互いの顔を見合わせる。
ヒョウタは奥のほうまで入っていって、そこにあるパソコンを立ち上げた。
パソコンは一瞬パシっと電気が通ったような気配を見せたが、すぐにプツンと切れてしまった。少し時間を置いてもう一度やってみたがダメだった。
「これ、ずいぶん古いタイプのパソコンのようですが……」
ゴヨウがパソコンのウラを調べてつぶやいた。
「そしてここも、古いというかかなり放置されたような感じがしますね。空気がよどんでる」
そういって部屋をみまわしたゴヨウの表情が、部屋のはじのほうにあるものを視界に捕らえて、はっと凍りつく、思わず上げそうになった声をとっさに口を覆った手が押さえ込んだ。
ゴヨウの何かを見たその表情に気付いて、このパソコンの位置に来るまで死角になっていた辺りを振り向こうとしたヒョウタの頭を、振り向かせないようにゴヨウがあわてて抑える。
「ちょ、……っと覚悟してから見たほうがいいですよ、ヒョウタ」
ことのほか真剣な表情で言うゴヨウにヒョウタはどきりとして、ちょっと覚悟を決めた後こくんとうなづいた。
でもやはり覚悟してもヒョウタはきゃあ、とまるで女の子のように悲鳴を上げることになるのだった。
入り口の辺りからはいくつか置かれた本棚によって隠れている部屋の奥の角の辺りには、小さめの机が置いてあり、手前に椅子があり、そしてそこに、こちらに背を向けて人が座っている。机にうつぶせて。
人がいたのなら、多少なりとも気配がするはず。
気配もしなかったその洋服を着たものは、もはやずいぶん前に息絶えたであろう、白骨死体だった。
くすんでくたびれた服の袖から薄茶のひじの骨が伸び、その腕の片方は机に乗せられた頭蓋骨の下に、片方はだらりと椅子の横に投げ出されている。
「し……死体……っ!」
悲鳴を上げてヒョウタは思わずゴヨウにしがみついていた。さっきまでたのもしくも軽々とドリルを使ってあっちこっち崩しにかかっていた威勢のよさはどこへやら。がたがた震えて日ごろ仕事で鍛えている腕で、力の限りにゴヨウの細い腰に抱きつく。
「あいたた、たっ……! ちょ、ちょっと、ヒョウタ。落ち着きなさい。私を絞め殺すつもりですか!」
ゴヨウがヒョウタとは別の意味で悲鳴を上げる。その声でヒョウタははっとしてだきついてしまっていた腕を慌てて解いた。
「あ、ご……っ、ごめんなさい!」
自分がやっていたことに気付いてヒョウタはとたんに顔が赤くなる。
一度はゴヨウを離したヒョウタだったが、ふたたびちらっと白骨死体を見やり、やっぱり怖くてしょうがなくて結局今度は控えめにゴヨウの腕を両手でつかんだ。
その様子が何だかかわいくておかしくてゴヨウは笑い出し、「怖がり」とヒョウタをからかう。
ゴヨウは片手に怖がるヒョウタをつけたまま、白骨死体に近寄った。
さすがにゴヨウにも多少の恐怖心はあった。死体というのは見たことがあるが、こうも露骨な人骨、というのは初めて見る。
でも、久しぶりになにか、どうしようもないほどに好奇心が沸き起こってくるのも感じていた。
本ばっかり読んでいると、ある種のパターン化された展開というのが分かるようになってくる。それは物語にありがちなものだが、現実にしてもそう間違っているものでもないことをゴヨウは経験上から知っている。
……予感がする。
このパターン……ストーリーが、展開していく予感。
ゴヨウにはそんな感じがしていた。
ヒョウタを片手につけたまま、進み出て、ゴヨウは白骨死体を覗き込んだ。
最近の服装ではない。やっぱりかなり古い。……少なくとも、死体が白骨化してしまうほどには時間がたっている。確実に、それ以上だ。
死体が突っ伏している机の上に、開いたままのノートがあることに気付いた。黄ばんで古ぼけたノート。
よく見れば死体はその指の骨の間にペンのようなものを絡ませている。
書いた途中で事切れたのだろうか。
「何か書いてある……」
ゴヨウの腕を抱きしめたまま恐る恐る覗き込んだヒョウタがつぶやいた。
ヒョウタもまた、恐怖心と同じくらいの好奇心があって、怖いものの、どうしようもなく興味を惹かれてしまっていることには違いなかった。
好奇心に突き動かされる2人が覗き込んだ開いたノートの中央に、少しの文字が見えた。
や みつけた やっと
でも ンの毒にやられた 私はもうだめかもしれない
でも けた 伝説じゃなかったんだ
巨大な はあった―――
かろうじて読めるが、ただでさえインクが薄くなっている上に所々濃いしみのようになっていていくらか読み込めない箇所も多い。
「何かを、見つけた? このひとが。それでも何かの毒のせいでこれを書きながらここでコレを書いて死んでしまった……のかな」
「多分そんな感じでしょうね」
言いながら、ゴヨウは何かが引っかかるのを感じていた。
『伝説じゃなかった、巨大な……』
「巨大な、なんなんだろう?」
ヒョウタが首をかしげる。
そう、巨大な……。その先の一言がほしいのに、自分の記憶にももやがかかって、このノートにもしみがかかっていて出てこない。
ゴヨウは眉をしかめた。
ヒョウタがやっとこの白骨死体にも慣れてきてゴヨウの腕を放してノートに手を伸ばす。
そしてそっとうつぶせる頭蓋骨と腕の骨の腕の下から古いノートを抜き取った。
抜き取る最後でノートの端が骨の下でもろく崩れる。それはこのノートがいかに古い物であるかを物語っていた。
「ヒョウタ……気をつけてくださいね。その紙、風化寸前と言うか……かなりもろくなってます」
「は、はい」
ヒョウタはそれからもう一度はい、といってゴヨウにノートを差し出した。
ゴヨウが首をかしげる。
「僕はちょっとこういう繊細なのは範囲外ですよ。ゴヨウさんが扱ってください」と苦笑いするヒョウタ。
ゴヨウはヒョウタからノートを受け取った。
この地下の湿気を含み、手にしっとりとその身をゆだねるこのノートは人間で言えば瀕死状態。もともとの紙がいいものが使われているせいで瀕死に留まっているが、おそらくそうでもなければとうの昔に朽ち果ててしまっていただろう。
しっかりと堅く自分を主張する現役の本も好きだが、ゴヨウはこういった、時間の圧力をじわじわ受けてか弱くなった本の紙の感触も好きだった。
ゴヨウは一度開かれていたものを閉じる。みしり、と悲鳴のような音がしてゴヨウをひやっとさせる。
一度閉じたノートを、今度は表紙からめくり始めた。
とりあえずこれが何なのかを把握しようとゴヨウは何ページかおきに、テキトウに感覚を開けてめくっていく。その手つきもごく慎重に。
基本的に横書きの文字が、場所によってはきちんと行をなして丁寧に、また別の場所では殴り書きのように乱雑に書き込まれていた。
さらに何枚かページをめくっていくと……。
Unfinished.....
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