地下秘密基地にて

デン→ヒョウからゴヨ←ヒョウへ。つまりはゴヨヒョウの話。


ヒョウタの秘密基地の場所は、だれもしらない。
表向きの秘密基地をはわりと見つけやすい場所にあるが、実はもう一つ秘密基地をもっていて、そちらのほうはちょっとわかりずらい場所にあるのだ。
ヒョウタの基地の、ハタを取った者はいまだかつて一人もいなかった。
だが……。

「ハタが取られている……」
ある日降りてきたひみつ基地のパソコンを見てヒョウタは驚いた。
地下をよくしっているヒョウタだからこそここまで巧妙に隠してきたこの秘密基地の、ハタが取られた。つまり、この場所が見つけられた。
ヒョウタは驚いて、同時に少し心がときめくのを感じた。
隠しているとはいっても、完全に誰にも分からないようにしているわけではない。
ヒョウタは誰か、巧みにここを探り当てる存在をどこかで期待して、この基地は探せば分かるようにしてあった。……難解ではあるが。
本当はだれにもここは知られたくないが、それほどの、この基地を見つけられるほどのカンや地下での能力をもった人物がいるならむしろ探り当ててもらって、その人に会ってみたいと思った。そんな願いも込めてつくったこの特別なひみつ基地。
それにはじめてあったアクセス。
だれだ? ここを見つけたのは……
ヒョウタは詳しい情報をパソコン上に打ち出した。
「だれだろう。えーと、なまえ…………ゴヨウ?」
と名前を見てさらに驚く。
「えっ、ゴヨウっていったら四天王の一人の……?」
ヒョウタは目をぱちくりさせた。
彼にはジムリーダーと四天王の集まる会議の時に一回しか会ったことはなかったが、それでもヒョウタはよく覚えていた。四天王最強の名にふさわしい、落ち着きはらってはいるが、そこにいるだけで人を圧倒するようなするどさ、気迫を持つひとだった。
それがこんなところに?
まさかね。とヒョウタは思ってちょっと笑う。彼ほどこの地下が似合わなそうな男もいなかった。
あのスーツ姿で地下探索をしているところなんて見てみたいものだ。
そう思い、ヒョウタは彼がハタをとったのだという事実と、名前の違う誰かの功績だと考える気持ちを曖昧にしたまま、パソコンを消してふかふかのベッドに体を横たえた。
例えばそれがゴヨウだったにせよ他の誰かにせよ、だれかがここを見つけたんだという今までなかった事実に多少の不安とときめきをこころに残したまま、でもヒョウタにはいまちょっとした悩みがあって、その悩みが再び自分の前に現れてきて、ふうとため息をつくのだった。
自分の秘密基地……やっと落ち着ける場所。
横になりながら、ヒョウタはぼんやりと岩でできた天井を見つめた。
「ひみつきちにシャワーとか置けたらいいのにな……あ、でもそうなると水道管設備もととのえなきゃならないのか」
目を閉じる。
「ん? でもここら辺にたしか水脈があったな……」
がばっと起き上がって地下地図をひろげて確かめる。
「うーん……ちょっと遠いか。でもこのくらいなら地表にパイプを出して……」
そこまで考えて、ふと我にかえる。
「何考えてんだか……」
どんなに悩みを抱えていてもすぐに水脈とか坑道とか、そういうことに思考の傾いてしまう単純に地下好きの自分に苦笑いしてヒョウタはふたたびベッドに身を横たえた。
そのとき下に敷く布団が首元にふわりとあたって、ヒョウタはおもわず「あっ」とつぶやき、とっさに首を押さえる。
「……」
ふいにやってしまった無意識の行動に気付いてヒョウタは手を放してためいきをついた。
頭にデンジの顔がちらついて、心を重く締め付ける。
同時に触れられた髪と、触れるつもりではなかったのだろうがついでに触れてしまった首元にデンジ指の感触を思いだし、いまになってそこが妙にうずいてくるのを感じた。
「ああもう、なんで……」
何かを拭うように手の甲で首をなで、手を放す。
「なんでだ、デンジ。友達じゃ、だめなのか……?」
気付いてしまった思い。デンジが垣間見せた、友達以上の自分への心。
こちらが気づいていることに向こうも気付いている。だからこそ、こんな行動に出ているのだろう。デンジの行動は友情の枠を確実に外れていた。
髪に触れられる……
あの大きな手が自分の方に向けられただけで、必要以上にドキドキしてしまった。
……だけど、自分はデンジを好きにはならない。
それはデンジが男だからと言うのではなかった。
嫌いじゃない。……でもデンジは自分の中で友達の枠を出ることはないのだった。
「はあ……」
一人でつくため息は、このせまいひみつ基地の中で妙に大きく聞こえる。
「ぼくが気持ちに気づいたって気付いているなら、明確に心を言葉で言ってくれればいいのに。そうしない限りは、どうしようもないじゃないか……」
でもたとえば思いを告げられたとして、じぶんは言えるんだろうか。ごめんと。
どうだろう?
例え言えたって、デンジに理屈は通じないかもしれない。常識やらなんやら、そういうものはあの人の前では無効のような気がする。それで自分はかわしきれなくて……
どうしようもないのだろうか?
悲惨な関係になりそうな予感がした。
考えるのも無駄なような気がして思考を一時シャットアウト。
ここにいればだれにも邪魔されない。誰にも……デンジにも。
自分のひみつきちにいる間くらいはそういういろいろなことを考えるのをやめようと思って、ヒョウタは目を閉じた。

閉じた瞳の裏に、なぜか先ほどの名前が思い浮かぶ。
「ゴヨウ……さん、か」
赤いスーツ、柔らかくウエーブのかかった藤色の髪……その下の、いろめがねに半ば隠された瞳は理知的だった。
今更ながらに鮮明にその姿が思い出される。
あの人ならば果てしなく理論が通じそうだな、とヒョウタは思った。
……というより理論こそが全てのような、そんな雰囲気がある。
言ってしまえば堅苦しい。だけどその堅さは好ましい。
自分とは世界が違うが、そういう人といるのはなんだか楽なような気がする。
ああいう人と……一度話をしてみたいな、と思ってヒョウタはため息をついた。
立場がかけ離れすぎている……。
自分はジムリーダーの中でも最弱で新米で。向こうは経験もあって実力もチャンピオンの下ナンバーワンだ。
そして自分はこんな地下にもぐっていて、その一方で向こうは高い高い、チャンピオンリーグの空に近い塔の上。
何もかもが、遠すぎる。



「ふうん……あなたがトウガンさんの息子の……」
ふと自分に目を留めて、しげしげとながめるゴヨウ。
……あれは会議が終わったあとでだった。
いろめがねの後ろの鋭い目つきが品定めするように自分を見つめた。
その瞳に見つめられたとたんに自分は自信も何もかもなくなって……。ここにいてはいけないような気がしてしまった。ジムリーダー試験に受かって自分は選ばれたんだというわずかな自信も何もかも、霞んでしまって絶対的な力と経験の差を意識させられた。自分はダメだと思ってしまう。
あまりに簡単に落としてしまった自身は、しかしあまりに簡単に救われたのだった。
品定めする鋭いゴヨウの瞳が自分の瞳を覗き込んだ時にふっと優しくなった。
それは意外なことだった。今までの雰囲気からは想像できなかった優しい表情がめがねの向こうに見える。ゴヨウのみせた柔らかな表情にヒョウタは目を奪われた。
「新米ジムリーダー。これからいろいろ大変だと思いますが、がんばってくださいね」
優しい表情のまま、告げるゴヨウにヒョウタの心は再び今まであったやる気とプライドを呼び起こされ……そのときヒョウタはがんばろう、と思ったのだった。
高望みかもしれない。でも、目の前の、四天王最強を誇るゴヨウ。彼を目指してがんばろうと思ったのだった。

そんなことを思い出しながらいつしかヒョウタはふかふかのベッドの上、眠りに落ちていく。
今日は疲れすぎた……。
デンジのことも、何もかも、忘れて今は眠りたかった……。



かた、と秘密基地のいりぐちで堅い靴が土を踏み分ける小さな音。
疲れたヒョウタの眠りは存外深く、その音を聞きつけない。
はいってきた赤いスーツの男は秘密基地の中ほどまで行ったところで人がいることに気付いて驚く。
ふかふかのベッドで寝ているヒョウタを覗き込んでゴヨウは一人笑った。
「名前を見てもしやと思ったが、やっぱりここはクロガネジムリーダー、ヒョウタの秘密基地だったか……」
とりあえず目的のパソコンのところへ向かい、ゴヨウはハタをとる。
「本棚をもう一つおきたいので、ハタ、もらっていきますね」
眠るヒョウタにつぶやき、ハタを片手にかれを起こさないようにと足音も静かに立ち去ろうとした。そこに、
「ゴヨウさん……」
名前を呼ばれてゴヨウはどきっとして足を止めた。だが、振り向いた先のヒョウタは眠っている。
ゴヨウは首をかしげた。なんでこうタイミングよく、自分のなまえを呼ばれるものか。
「ん……デンジ、ごめん……ぼくは……」
次にヒョウタがつぶやいた言葉、デンジという名にも聞き覚えがあった。デンジは確か、ナギサのジムリーダーの名だ。
ゴヨウ、デンジ……続けざまに呼ばれる名の共通点に思い当たらずゴヨウは首をかしげる。
不思議に思って見下ろしたベッドのヒョウタの表情がどこか苦しそうなことにゴヨウは気付いた。
そしてついでにあることに思いついたゴヨウはヒョウタの顔に手を伸ばす……
眠るヒョウタの、つけたままだっためがねに指をかけ、そっとはずした。
「めがねしたままだと、悪い夢を見やすいんですよ」
眠るヒョウタに聞こえるはずもないけどつぶやく。メガネは眠るヒョウタの枕元に置いた。ついでに彼の眉をしかめているあたりをそっと撫でる。
「いろいろ苦労も多いでしょう……がんばってくださいね」
撫でられた後のヒョウタの表情はふうっと安らかなものになって、ゴヨウはそれを見てなんだかほっとした。
「あなたを見ていると、なんだか昔の自分をを思い出します。ふふ、どこか、似ているのかもしれませんね。私と、あなたと……」
手を離して、しばらくヒョウタを見つめて……ゴヨウはふたたびはいってきた入り口へと向かった。
「地下も、なかなか楽しい。また来ます……」
聞くもののないセリフを主の眠る秘密基地に残して、ゴヨウはこの基地を後にした。

パソコンにはまた、ゴヨウがハタをとったという記録だけが残された。

END


ゴヨヒョウ……いいと思うんだけどなあ……
受×受、好きなんだよね。
デンヒョウも嫌いなわけじゃなくて、
みんながやってるなら、どうせならそこから一歩進んで……
とかついつい考えてしまう。

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