トクサネの夜

ダイゴ×ユウキ。ちょっと甘い。



「今日、とまってく?」
いつの間にか話し込んで、夜も遅くなっていた。
ここはトクサネ。普段はあまり人のいないダイゴの家。
今日はたまたまダイゴがいて、そして簡素な部屋の中、必要最小限に置かれた机の上にはお茶の入ったカップが二つ、向かいにはユウキが座っていた。
久しぶりの休暇を家でとっていたところにたまたまユウキがこの街を訪れ、そうとは知らずにダイゴの家を訪れた。
ヒマな休暇を過ごしていたダイゴは思いもかけない客に喜び、ヒマ潰しの話し相手に、とユウキを招き入れた。
とりとめのない話は飽きることなく続いて……いつの間にか日も暮れ、夜も遅くなってしまったのだった。

うつらうつらしはじめたユウキを心配しながらダイゴは泊っていくかと提案した。
「いえ…迷惑かけるわけにはいきませんから」
ユウキは目をこすり、にこ、と笑ってみせてあくびをひとつした。
その動作がやたらと幼く、かわいらしい。
「とまっていきなよ。これから宿を捜すの大変でしょ。うちだったらほかにだれもいないし。ぼくはソファーで寝るし」
「いえ。それでは悪いですから…」
ユウキは、まだここでダイゴと話していたいな、となんとなく思いつつ、どうしようもない自分の体力の限界を呪った。
今日は波乗りを使ってなんとかこのトクサネの街にたどり着いたのだった。
来る途中の大量のドククラゲとの戦いはトレーナーの身にもなかなかこたえていた。ポケモンたちはポケセンで回復したが、自分はその疲れを引きずったままだ。いままでダイゴとの会話に知らず夢中になっていて忘れていたが、幼い体は正直だった。疲れていると、何よりも先に眠気が襲ってくる。
ユウキが眠い目をこすっていると、急に身体がふわりと浮いた。
「えっ?」
おどろいて、不思議な感覚にこすっていた手を離して見ると、ユウキは軽々とダイゴに抱きかかえられているのだった。
「だ、ダイゴさん?」
振り向いて同じ高さで視線が合ったダイゴはにこっと笑った。
その笑顔はユウキに次に言う言葉をふっと無くさせる。
ダイゴはユウキをベットに運ぶとそっと降ろして寝かしつけて、上から布団を掛けた。
目をぱちくりさせて自分を見上げるユウキにダイゴは笑ってみせる。
「つかれてるんでしょ。子供は遠慮しないの。かわいくないなぁ」
……といいつつダイゴは横たわって自分を見上げているユウキの額をいとおしそうになでた。
温かい手にまぶたの上をさあっとなでれ、ユウキは、あ、気持ちいい、と思った。
疲れたからだが、無意識に人に頼ろうとする。
ユウキは、知らず瞳を閉じていた。
すごく小さい頃、母親にこうしてもらった記憶がある……。
あのときも、寝かしつけられているときだった。
あの時と同じような、安心感。
ダイゴの指は母の手のように柔らかく温かく優しかった。
……そして、同じ位自分を大切にしてくれているんだな、という愛情を感じた。
だが、母にそうしてもらった時とはまた違う、妙に甘く、何となく後ろめたくなるほどの心地よさも同時も感じていることにユウキは気付いていた。
なでられたところが、くすぐったいような、じわっと痺れるような甘い感じになる。
それは、ダイゴといる時にいつも感じている感情。その甘く心地よく、後ろめたい感情がなんなのか、ユウキは直感で分かっていたが、自分に対してごまかしていた。結論を出さないようにしていた。
ダイゴにそうしてなでられていると、次第に気持ちが安心しきっていく。緊張の解けた心が同時に眠気をうながした。
まぶたが重い…
限りなく優しく自分をのぞきこむダイゴの表情がしだいにぼやけていき、ぬるまゆにとぷんと浸かるようにユウキは心地好い眠りについた。

「……」
無防備に眠りに落ちたユウキをダイゴはしばらく見ていた。しずかな寝息が規則正しく繰り返される。それを聞いていると、妙に満ち足りた、幸せな気持ちになるのだった。ダイゴはちょっとかがんで、ユウキの頬に触れるか触れないかの柔らかなキスを落とした。
「ん、ダイゴさん…」
タイミングよく名を呼ばれ、ダイゴはどきっとしたが、どうやら寝言らしかった。
ダイゴは溜め息をひとつついた。

自分はいったい何をやっているのだろう。
……こんな少年に恋をしてしまうなんて。
考えもなしに「とまっていけば…」などというものじゃなかった。そのことに、今気付いた。べつに眠ったユウキを部屋に置いておくくらい、なんてことはないと思っていたのだが……甘かった。
自分に気を許して、安心しきって目の前で眠ったこの少年が予想以上にいとおしかった。
ダイゴはためいきをついた。
自分の意志の弱さにうんざりする。
現にこうして今、無意識に唇を寄せてしまった。
ダイゴはユウキが大切だった。だから、絶対に手出しはしないと決めている。
決めたのに、わざわざ自分が不利になるような状況に自分を追い込むなんて馬鹿なことをしたものだ、と思った。

ふと見ればあいかわらずユウキは無防備にすやすやとかわいらしく寝息をたてて眠っている。
トレーナーとしての彼は能力が高く、大人びていて、その姿をダイゴはどこか自分と対等の立場に感じていた。
そしてダイゴは、一人の人間として、彼に恋をしていた。
だがこうしてみるとユウキは本当に無防備な、幼い子供。思いがけず見せた幼い一面が、ひどくダイゴを惹きつける。

ユウキの少し開かれたくちから、ゆっくりと息が吐かれ吸われた。その柔らかそうな唇に知らず魅入っている自分に気付いて、ダイゴは無理矢理視線をそらした。
「君が悪いんだ。普段あんなにスキがないくせにここにきてスキだらけだなんて」
すぐそばにほしい物が何の障害もなくある……。
ダイゴはなんとなく手を伸ばし、指でユウキの頬に触れる。
指先が柔らかく温かいユウキの肌の感触を伝えた。
無意識にやっていた行動から来る、その指先の感触が、ダイゴの意思をくらりと揺るがす。
たまらなくなって、ダイゴはふたたびかがみこんで、その柔らかそうな唇に唇を寄せた。
くちびるが触れるか触れないかのところで、しかしわずかな理性が強く引き止める。
だめだ。
しっかりしろ……。
自分に言い聞かせてなんとか、ダイゴは思いとどまった。

ダイゴはホルダーに手をのばし、モンスターボールをひとつとった。
メタグロスを呼び出す。
部屋の、ユウキが寝ているベッドの前にが呼び出されたメタグロスは、呼び出された状況が普段と違うためか不思議そうにしてダイゴを見た。
「メタグロス、そこでユウキくんを守っててくれ。……ボクから。」
メタグロスが、不思議そうな顔でダイゴを見上げる。
ダイゴは苦笑いした。
「まあ、大丈夫だろうと思うけど、ボクが近づいたら破壊光線ね」
こんなもの出し阻止しなければならないような弱い自分の意思にうんざりする。そして、チャンピオン戦で多くのトレーナーを退けてきた完全無欠のポケモンがこんな目的でも使われるという事実に苦笑い。

ダイゴはあくびを一つした。
「ボクも、寝よう。おきてるとよくない……うん。」
自分自身にうなずいて、ダイゴはスーツの上着を脱いで、シャツのままソファーに寝ころがった。
「はあ……報われない恋だな……いつまで、耐えられるか」
つぶやいて天井を眺める。
でも、そんなストイックな恋も、ダイゴは嫌いじゃなかった。
いつか、ユウキが大人になるまで、自分はあくまで「いいお兄さん」でいよう。
なんとか耐えられる自信はあった。


翌朝、幸せな夢を見て心地よく目覚めたユウキは、べッドの前でじっとしているメタグロスを見て不思議に思うのだった。

END


ダイゴ×ユウキはこんなのが理想。
好きだけどお互い理性的な人間のためあくまでストイック……みたいな。

 

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