ちょっとしたこと。

オーバとゴヨウ。


 

「ゴヨウ」
呼ばれてゴヨウは振り返った。
呼んだのはオーバだった。
冗談みたいに赤いふわふわのアフロ……ゴヨウはいつもながらにそれに視線を奪われつつ呼ばれた彼に返事した。
「なんですか、オーバ。こんなとこまで上がって来て」
四天王の、彼の持ち場からは一つ上の階のゴヨウのフロア。ここにはリョウがちょくちょくやってくることはあってもオーバがあがってくることはあまりないことだった。
「ああ、ちょっと聞きたいことがあって」
すぐ近くまでくるとオーバはえらくまじめな表情をした。
「リョウに、抱かれたのか?」
まえふりもそこそこにあまりに単刀直入に聞かれた言葉にゴヨウは一瞬何の話か分からなかったが、意味を飲み込むと頬が露骨に赤くなった。
「ええ、まあ……」
無意識に自分の前髪に触れて、直すような仕草をした。
それをオーバが見ているのに気付き、その仕草が自分が動揺しているときのクセだったことを思い出して手を離す。……かわりにメガネをなおして、それもクセだったとはっとする。
ゴヨウは苦く笑って、それから動揺を抑えた強い瞳でオーバを見た。
「……説教、しにきたんですか。好きじゃない相手に体を許すなと。それはお前のためにならないし、リョウのためにもならないと。……当たっていたら、わかってますからもう帰ってください」
「あのな……」
「それから、ついでにそのことで何かしらのショックを受けているかもしれない私の気を紛らわせてくれようと世間話でも持ち込みにきてくれたんでしょう? ありがとう、でもわたしは大丈夫ですから……帰って」
隙を見せないゴヨウの口調とあまりに的を射た内容にオーバは面食らう。
「あ……ああ……。確かに、全部お前の言うとおりだ。だけど、言わせてくれたっていいじゃないか。お前……なんで拒否しない。抵抗しないんだ」
「……」
黙り込んでしまったゴヨウに、オーバはしまった、とおもう。
責めに来たわけじゃない。
「拒否のしかたがわからないんですよ……」
ぽつり、とゴヨウがつぶやいた。
「え?」
「なんて言葉を使ったらいいのか、それをどんなニュアンスでどのタイミングで言ったらいいのか……私はよくわからないんですよ。それだけのこと。ちょっとしたこと、なんですけどね……。私はできないから、どうしようもないんですよ。リョウは嫌いじゃないから、自分が拒否できないなら、それは自分が悪いのだから、ながされてしまってもそれはしかたないし、いいかな、と」
「それでおとなしくヤられてるってのか? 嫌じゃないのか」
ゴヨウは、どこかぼんやりした瞳を空にさまよわせた。
「私は……好きな人とじゃなきゃいや、とか、そういう道徳的な心は持ってないんですよ。誰にだって、触れられれば気持ちよくなってしまう。抵抗する理由なんてない」
「おれでもか」
オーバがかけたその一言に、彷徨っていたゴヨウの視線がはっとオーバを見た。
「たとえば今ここで俺が好きだと告げたら断れず、それをOKとみなして押し倒しても抵抗もしないのか」
何を言い出す……。
ゴヨウは心にさっと緊張が走るのを感じた。
「ええ、そういうことに、なりますね」
なぜか、不必要に心拍数があがっていく。
なにを動揺している。オーバがしているのは例えば、の話だ。
「……でもあなたは優しいから、たとえ私に想いを寄せているようなことがあったとしても、こんな場面でなしくずしに関係をもってしまうようなそんなセリフはいわないでしょう?」
クギをさす。
そんなこと、言わないでしょう? ……オーバ、言わないでくれ。
しばしの沈黙……。
オーバはやれやれと笑った。
「おまえ、なんかとりまく雰囲気があぶなっかしすぎるぞ」
ぽん、と頭に手を置かれた。
それが合図でいつの間にか張り詰めていた緊張がぱきんと崩れる。
ゴヨウは気付かれないように小さく息を吐いた。
「いわねえよ。……ていうか、お前みたいなネクラな男に惚れたりなんかしないよ」
ゴヨウはどこかほっとして笑った。
「そうですよね」
笑った顔にオーバがほっとする。
「本ばっかり読んでいても断り方はわからない。たまには散歩にでも出たらどうだ? リーグの、こんな高いとこにずっといるから頭が堅くなるんだ。たまには地下にもぐって探険でもしてこいよ」


部屋を出て階段を下りていくふわふわのアフロをゴヨウはぼんやり見送った。
「……ありがとうございます……」
いなくなってから、おもいだしたようにゴヨウはぽつりとつぶやいた。

END


リョウくん手が早い(笑)

 

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